第1章

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トシユキ「マレノブという武器商人が来た  と」 イチル「……あぁ」 トシユキ「……どうなりましたか」 イチル「……すべては、三日後に決まる」 トシユキ「……そう、ですか」 イチル「……」 トシユキ「艦長」 イチル「まだ何か」 トシユキ「……少し、休め。イチル」 イチル「……」   イチル、トシユキの前まで歩いてくる。 イチル「この艦に乗る前に、話したはずだ  ぞ。きちんと決めたはずだ。私は艦長で  あり、お前は参謀。そういう関係――」 トシユキ「……」   イチル、トシユキの肩に額を当てる。 トシユキ「……」   肩を揺らしているイチル。 イチル「(弱々しい声で)でも、やだ……  もう、やだよ……こんなの……」 トシユキ「……」   涙を流しているイチル。   そんなイチルの頭をなでるトシユキ。 トシユキ「……すごいよ、お前は」 イチル「……」 トシユキ「俺は、一度自分の命を捨てた」 イチル「(見る)……」 トシユキ「死んでいく仲間への罪の意識か  ら、逃げたくって、死を選んだんだ」 イチル「……そんな」 トシユキ「でも、あの男に。マレノブって  奴に言われたんだ。生きて、弔えって。  死んで逃げるよりも、生きて償えってよ」 イチル「……」 トシユキ「あんな奴に、俺は救われたんだ。  目が覚めた。あいつの言う通り、俺は罪  から逃げようとしてたんだ。それじゃ、  駄目なんだ。仲間の敵討ちも出来ないで、  参謀なんかやってられるかって」 イチル「……」 トシユキ「俺は、あのマレノブを利用して、  仲間を守る」 イチル「……」 トシユキ「お前を守る」 イチル「……(涙を拭い)ずいぶん、頼も  しいことを言う」 トシユキ「参謀が頼もしくなけりゃ、艦隊  は沈む」 イチル「……」 トシユキ「もう、誰も失いたくない」 イチル「(涙ながらに笑い)……期待して  いる。トシユキ参謀長」 トシユキ「(微笑んで)……」 ○海上   日本国旗が刻印された大量の棺が、戦   艦クサナギより投下されていく。 ○戦艦クサナギ・甲板   軍服を着た兵士一同が、敬礼をしてそ   の様子を見送っている。   その中に、トシユキの姿。   拳を握りしめるトシユキ。 トシユキ「……(悔しくて)」   その傍らに憂鬱そうな表情のカスミも。   先頭で水葬を見送っているのはイチル。 イチル「……」
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