第1章

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  東京、六本木。 世界有数の経済大国の中でも最も裕福な人間が湯水の如く金を落として行く楽園。 しかしそれ故に、資本主義の理に虐げられた屑が、金のために何でもする地獄。 「よう、『死体屋』」 そう、呼び止められたのはむさ苦しいホームレス風の男だった。 針金のごとくごわごわになった埃っぽい長髪、垢まみれの煤けた顔に濁りきった目の色。前歯はほとんど抜け落ちていて、 「あぁ、三条の旦那」 三条の発音も空気が抜けて『ひゃんじょう』と聞こえる。醜悪を絵に描いたようなその男の両腕には、いかにも重たそうな大きな木の箱が抱えられていた。それをよっこらと手押しの台車に乗せてから、にっと卑しげな笑みを見せる。 「今日は三条の旦那が踊る日でひたか。通りで、お客の入りが多い」 一方、死体屋の言葉にふんと面白く無さそうにに鼻を鳴らした若い男は、所謂セレブ御用達の会員制クラブ『グラス・カーペット』のダンサー、三条碌【さんじょう ろく】。  
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