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重機ロボットをオペレーティングする中、正明の《一人語り》が始まる。
シーンはロボットの作業を映し出す。
《小さい頃、プロ野球選手になるのが夢だった。
けど、補欠とレギュラーの間を行ったり来たり、思ったようなプレイが出来ない自分に嫌気がさして、坊主になってまで続けるほどの情熱は生まれなかった。
中学に上がった頃は、ビリヤードにはまってた。
それも、なかなか上達しない自分の腕にやきもきして、結局長続きしなかった。
理想と現実の差――
いつだって、俺の敵は自分の理想で、長続きせず諦めてしまう自分で、飽きっぽい自分で……。
親に造林を営む親方を紹介され、俺はそのまま就職した。
初めは、重機を動かすことに興奮したけれど、今となってはただの作業だ。
似たような現場、同じ様な操作、ルーチンワーク化された平々凡々な日々――》
現場のシーンが、帰路から自室へとうつろいでいく。
《朝起きて出勤、現場で穴を掘って、木を植えて……帰る途中にコンビニで弁当を買い、家でテレビを見ながら食う。
シャワーを浴びてあとは寝るだけ。
ただ、それだけの繰り返し。
今の時代、促進剤を使えば、樹木だって一ヶ月ちょっとで十数年分の成長をする。
それなのに俺のやる気は、いつまで経っても少年の頃に折れた、苗木のままだ――》
自室で食事をしているシーン。
弁当を中途半端に平らげた正明が、箸を投げ出して自室に寝そべる。
「あーあ……」
テレビでは、「メックバトル」のヒートアップした実況が流れている。
『日本の技術を世界に誇れ! 今日も始まる白熱移送(エンスージアスト)ッ! 雨が降ろうが屋根が飛ぼうがかまやしない! コースの破損は全部国持ち、市街山河を鉄機が走る! みなさんお待ちかね、メェェェェェェック・バトォォォォォォルゥッ!』
わあああああああ――
盛り上がるテレビ中継を、正明が腕枕をしながらつまらなそうに眺める。
《挫折で腐るほど性根が曲がってるわけでもなし、いわゆる非行に走るような根性もなかった。
親の言う通りに働いて、流されるまま成長し、気がつけば――誰にも見向きもされない、その辺の雑木みたいな大人になっていた。
幼かった頃の俺が最も嫌いだった、「つまらない大人」ってヤツだ》
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