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「ふぁー……」
正明が眠気まなこであくびをする。
不意にテーブルの上で携帯がバイブし、正明の手が伸びる。
着信表示は清水弘、
「はいもしもし――」
『当たったぁああああああッ!』
いきなりの大音量に、正明が顔をしかめる。
「……どうしたー、ヒロ。食中毒か?」
『ばっか、腹壊してこんな大喜びする奴があるかよ! 今の俺は吹かしたP-8Sモーターみたいになってんだッ!』
「はぁ?」
『ヒートアップしてるってことだよ!』
「あー……」
気のない返事で天井を見上げる正明。
「職場(うち)の重機のモーターも、そんぐらい元気だったらなあ……」
『お前んとこの重機って言うと……WH03か』
「そうそう、ワーカー(w)ホリック(H)シリーズの古いやつ。重いもの担ぐと、定期的にガクつくんだよ」
『ああ、磨り減ったギアが空回り起こしてるんだな。ってか、現役稼働中の重機で、その不具合はまずいだろ?』
「修理するにも高くつくらしくてなー。パーツが特注になっちまうんだと」
『03は生産終了した一世代前の型だからなあ……新機を入れる予定は?』
「親方が『そのうち買う』って言い出してから、もう一年半」
『あちゃー……』
「ケアするより、ぶっ壊れるまで使い倒そうって腹なんだろうな。働き蟻の末期(まつご)だよ」
『相変わらず煤けてんなあ、お前』
電話の向こうで弘が笑う。
『そんな正明君に、俺が最高のイベントをプレゼントしてやろう! お前の煤けた情熱モーターに、火が入ること間違いなしだ!』
「サンキュー、ありがた迷惑」
正明はあくびをしながら答える。
『明日、仕事が終わってもまっすぐ帰るなよ? 19時に福生(ふっさ)の駅で落ち合おう』
「福生?」
『確か、お前の現場から近かかったよな?』
「いや、まあ、割と近いけど……」
『じゃ、明日、19時に駅前な! 絶対来いよ!』
電話が切れる。
「相変わらず一方的なヤツ……」
正明がため息をつきながら電話を放り出す。
「……ま、どうせ予定なんてないんだけど」
テレビでは、メックバトルの放送が続いていた。
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