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――ダンッ
二機のメックがアスファルトを蹴ってヘアピンカーブに飛び込む。
正「うわぁあああああああ!?」
迫り来るメックの巨体に驚いて、正明がたまらず声を上げる。
スピードスケーターのように機体を傾けたメックが、ヒールのローラーでコーナーを高速漂流(ドリフト)する。
――ギャギャギャギャギャリッ
メックの足から飛ぶ火花が、ガードレールの外にいる正明を襲った。
正「~~~~~ッ!?」
顔の前に腕をかざし、正明が言葉もなく息を呑む。
弘「いやっほぉぉぉぉぉう!」
隣では細身でメガネの弘が、拳を突き上げて大絶叫。
二機のメックがコーナーを滑りきってまた疾走に戻る。
正「もろ浴びた!? 焦げくせえ! あじじじッ!」
正明がTシャツを払って大騒ぎ。
弘「どうよマッサ! この臨場感! これが生のメックバトルだぜッ!」
弘が興奮気味にメガネを押し上げて正明を見る。
正「どうよっていうか……シャツ焦げたし」
弘「記念だよ記念。デッドヒートの火傷痕は、メックバトル一番の土産だって。――ほら、飲め!」
弘が肩掛けバックからビールを取り出し、正明に押し付ける。
正「お前、酒弱くなかった……?」
弘「気分だけさ。バトルの時は一本だけ飲むことにしてるんだ」
正「――って、なんだノンアルコールかよ。しかもなんか、めちゃくちゃヌルい……」
弘「ビールは常温! それがグローバルスタンダード!」
正「ああ、そう……」
正明がため息をついて受け取る。
弘がプルトップを起こした瞬間、泡がスプラッシュする。
弘「うわァ――っはははははッ!」
泡のハネがメガネを汚しても、弘はなおも上機嫌だった。
正「楽しそうね……」
熱のない様子で正明が言う。
弘「あったりまえだろ? 西東京地区メックバトルの聖地、梅ヶ谷峠の折り返し地点、ヘアピンカーブ最前列のアリーナ! メックの火花を浴びながら飲むヌルいビール! こんな贅沢他にないって!」
正「メック好きなのは知ってたけど、まさか生で観戦するほどとはね……」
正明も恐る恐るビールのプルトップを起こす。
弘「マイナー、メジャー、レジェンド――バトルランクに関わらず、日程さえ合えばこうして観戦しに来てるんだ」
正「へー?」
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