第1章

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時は平安。夜の闇のなか、今様(いまよう)を歌う少女の声が聞こえる。 「春のやよいの あけぼのに 四方(よも)の山べを 見わたせば 花盛りかも しら雲の かからぬ峰こそ なかりけれ……」 その歌声は鈴を鳴らしたようで、庭の草木も静まりかえって耳を澄ませているようだ。 「花たちばなも 匂うなり 軒のあやめも 薫るなり 夕暮さまの さみだれに 山ほととぎす 名乗るなり……」 歌と共に、少女から芳しい香りがのぼる。屋敷の寝所が百花繚乱の花畑に変わるかと思われるほどに。
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