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翌日。改めて話すとは言ったものの、俺は朝から仕事に追われていた。
この間の撮影からずっとこんな調子だ。
小久保さんや園田さんも同じだろう。調整で各所をあちこち回っているに違いない。
それに応えるためにも、俺も頑張らなければと思う。
反対に、羽村の方は少し落ち着いているらしい。
あらかた仕事を片付けた様子だった19時前、歩み寄ってきた三浦さんとの会話が耳に入ってきた。
どうやら、出力を3部ほど依頼しているようだ。
「2部は鳳凰堂に送る分なのよ。小野さんがクライアントに頼まれたんだって」
そんなことを溜息混じりに言う三浦さんに、羽村が提案した。
「もし良かったら、私が届けてきましょうか?」
「え? いいの?」
「はい。今日はもう終わりなので、そのまま直帰します」
「そう? 助かるわ、じゃあよろしくね」
「はい」
聞き耳をたてながら、なるほど、と思う。
これは近頃バタバタしている三浦さんに対する、羽村の気遣いだろう。
直帰できるのなら、鳳凰堂へ行くのはそんなに手間にはならないはずだ。
手早く出力して身支度を整えた彼女が、「行ってきます、お疲れさまです」と言ってフロアを出ていった。
その背中を見送ってから、ふう、と息を吐く。
隣にいる羽村との間に、確実に流れていた不自然な空気が、解けたからだ。
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