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<緋ノ国・勝木城>
今日は快晴。
絶好の昼寝日和である。
自分には堅苦しい政務など似合わないし、合ってもいない。こういうのは次代を担う若者に任せておけばいい。
‥‥だが、事は単純にはいかなかった。
◆◇◆
「我らの命はッ! 姫のため!!」
『我らの命は姫のため!!』
「声が小さいッ! 気合いをいれろ!!」
たまには道場にも顔を出せと言われて連れてこられてみれば、この熱気。
相も変わらず元気な事だ。
「影里殿」
道場の屋根の上で横になっていると、屋根の上まで登ってきた青年が自分の名を読んだ。
眼鏡をかけた青年。見るからに優しそうな外見だが、これでも立派な武士である。
「‥‥ああ、昌孝殿」
葛城昌孝(カツラギ ヨシタカ)。丹羽家の古参の一人で、知勇に優れる男。まぁ古参といっても父の代から支えているため、そう言われているだけなのだが。
「珍しいですね、あなたが道場に顔を出すなんて」
「捕まっちゃってさぁ。でも、ここもなかなか居心地がいいし‥‥」
「体調の方はいかがですか?」
「ん、問題なし。白ノ国からわざわざ取り寄せてるんだからね、効き目も大したもんだよ」
‥‥まぁ、値段はアレだが。
「それにしても‥‥赤井殿は相変わらず元気だねぇ‥‥」
「ええ。《姫》も流石に驚いておられました」
「あ、鈴就様いたんだ‥‥」
《姫》というのは、この勝木城を治める丹羽家当主・丹羽鈴就の事である。
影里は彼に直接勧誘を受けたため知らなかったが、後から聞いた情報によると、なんでも兵を募る際に用いた売り文句が《魔法少女》だったとか。
それも彼が女性的なシルエットで、かつ魔法が使えたからであるのは見るに明らかであるが‥‥
「姫、ねぇ‥‥」
「まぁ、あなたも影では言われてますがね。《軍師殿は男装の美少女ではないのか》と」
「えぇ‥‥」
自分自身が女性的な見た目なのもわかっているが、影ではそんな風に言われていたのか。
「鈴就様もあなたを頼りにしておられます。それに、二人並べば見栄えもいいですしね」
「あははー、じゃ、もし戦が起こったらその美少女二人を護るために、皆には一肌脱いでもらわないとね」
影里はゆっくり身体を起こし、大きく伸びをした。
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