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無気力だった部屋の主は、目を見開いていた。俺がこんなに早くはっきりした態度を取るとは思わなかったのかもしれない。
「貴女を言い訳にして誰かに寄りかかるのはもうやめる。そんなことしても、貴女を……月穂さんを、忘れられそうにないから」
再び伝えた想いに、まだ濡れている小さな瞳は、憂鬱そうな翳りを帯びた。
「……八つ裂きにされるかもしれないのに? 女にとって、恋の終わりってそんな簡単なものじゃない」
「もしそうなったら……侑志のこと、連れ戻してきてあげるよ。俺の命と引き換えに」
わざと格好つけて、笑ってみせる。半分くらいは本気だった。もし修羅場が最悪の事態を招いても、その約束だけは一握りの希望になる。
容赦なく轟く雷鳴。降りしきる雨。荒れ狂う空の下へ出ていくのは、もう怖くなくなっていた。
「……さよなら」
名残惜しく、俺は彼女に背中を向けた。真っ直ぐ玄関の方へ進んでいく。
「さよなら」
冷たい挨拶に見送られて、俺は扉の外へ出る。
見上げた空は、闇が染め上げた黒一色。
こんな夜くらいは満月が見たかった。満月が輝いていれば、多分もっと勇気が出ただろう。
片割れを想い続けて泣いた人。結ばれなくても、貴女は俺の運命の女だった。
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