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”それ”は屍(しかばね)の歩みでやって来た。
のろのろとした歩みはまるで、生まれたてのようにぎこちなく、そして壊れた玩具のように不細工で緩慢だった。
今となっては似つかわしくないその衣装は、その前方で震えている兵士のそれと同じものだ。
近づいて来る”それ”の、何がそれ程に禍々しいのか。
暗闇に煌々と光る翠緑の両眼、その虚ろな表情は邪悪に染まっていた。
白蝋と化した皮膚には動脈や整脈が透けて見え、その下層にあるだろう筋肉のうねりまで覗けるようだ。
「グルルルゥ」開いた口蓋から漏れる低い声。「ウ-ゥウ-ゥ」いや、それは鳴き声か?
「来るなっ!」兵士は怯えた表情で叫んだ。「どこだ、どこに居やがる!?」
兵士には、近づく”それ”が見えていないのだ。
しかし、奏音(かのん)には視えていた。
兵士に近づいた”それ”が、本能に満ちた喜悦の笑みを浮かべたのを。
その本能とは始原の”食欲”か、それとも”自己増殖”だろうか──
その妖異な気配に気付いたのか、兵士の恐怖は頂点に達した。
「『Z』がぁ、『Z』が甦った!?」
恐慌に駆られた兵士は、ブラックカラーのFN SCAR-Lを連射した。
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