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島の気配が一変して、港の方がざわめき出した。
奏音が港の方を視ると、蛍火のような翠緑の灯火が、幾つも揺らめいている。
奏音にはそれが、夜空の銀河がそのまま、地上に堕ちたように思えた。
「屍魔が……数えきれないほどの屍魔が……来ます」奏音が言った。
「なに!?」乱摩が遠くを見るが、当然普通の者には見えない。
にわかには信じられない、悪夢のような光景だった。
不可視の霊体ゾンビが、島中の人間と霊体を喰らい、押し寄せて来るのだ。
「ふむ、港が覆うほどの屍魔の群れだな」斎妃も目を細める。
「……強行突破、だな」乱摩が言った。
軽トラの給油口を開けて、荷台のゴムホースを突っ込む。
ゴムをくわえて息を吸い、ガソリンを軽トラの前部に掛け始めた。
ビチャビチャと流れるガソリンの雫と、その揮発する匂いが緊張感を煽る。
「……ふう」乱摩が溜息を漏らした。
ポケットからタバコを取り出し、シュボッとジッポーで火を点ける。
ガソリンの液が大量にこぼれているのに、この男も剛毅である。
ふーっ、と紫煙を燻らして、港の方を見る。
無論、乱摩には迫り来る屍魔の群れは見えていない。
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