第2話「鴉鳩の鳴く夜」

39/40
前へ
/200ページ
次へ
火車にぶつかり、火ダルマとなって転げ回る屍魔。 荷台に乗ろうと藻掻く屍魔。 両手を前に突き出し、生者に掴み掛かろうとする屍魔。 のろのろと緩慢な動作で、ぎこちなく歩み寄る屍魔の群れ。 阿鼻叫喚、地獄さながらの現実のなかで、生者の奏音たちは必死に戰っていた。 奏音の耳に何処からともなく、すすり泣きが聴こえてきた。 「……ゆ、ゆるして……くれ」沖鳴が泣いていた。「……みんな……すまない……ゆるしてくれ!」鬼哭しながら、それでも生きるために戰っていた。 「……くっ」声にならない声を上げて、奏音も涙を流していた。 「か、奏音!?」屍魔に捕まった斎妃が叫んだ。 「斎妃さん!」奏音が飛び込みながら、屍魔の眉間にナイフを突き立てた。 「グルルゥ─!」それは祖父の隣家のオバさんだった。一昨日の朝に笑って挨拶をした人だ。 「嗚呼あああぁっ──!!」奏音は絶叫した。 もう死者も霊も、傷付けたくない、自分は傷付いても良い。しかし、それだと仲間も同時に全滅するだろう。奏音はナイフを振るいながら思った。 「海に飛ぶこむぞ、船に飛び移れ!」乱摩が叫んだ。 車の前方には港が迫り、海に突入する寸前だった。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加