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火車にぶつかり、火ダルマとなって転げ回る屍魔。
荷台に乗ろうと藻掻く屍魔。
両手を前に突き出し、生者に掴み掛かろうとする屍魔。
のろのろと緩慢な動作で、ぎこちなく歩み寄る屍魔の群れ。
阿鼻叫喚、地獄さながらの現実のなかで、生者の奏音たちは必死に戰っていた。
奏音の耳に何処からともなく、すすり泣きが聴こえてきた。
「……ゆ、ゆるして……くれ」沖鳴が泣いていた。「……みんな……すまない……ゆるしてくれ!」鬼哭しながら、それでも生きるために戰っていた。
「……くっ」声にならない声を上げて、奏音も涙を流していた。
「か、奏音!?」屍魔に捕まった斎妃が叫んだ。
「斎妃さん!」奏音が飛び込みながら、屍魔の眉間にナイフを突き立てた。
「グルルゥ─!」それは祖父の隣家のオバさんだった。一昨日の朝に笑って挨拶をした人だ。
「嗚呼あああぁっ──!!」奏音は絶叫した。
もう死者も霊も、傷付けたくない、自分は傷付いても良い。しかし、それだと仲間も同時に全滅するだろう。奏音はナイフを振るいながら思った。
「海に飛ぶこむぞ、船に飛び移れ!」乱摩が叫んだ。
車の前方には港が迫り、海に突入する寸前だった。
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