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「待て、筒川」松岡は言い、「ちょっと話をしようではないか」ごそりと机の下から一升瓶を取り出した。
「はっ、それならば」相好を崩した筒川は、ごとんと椅子を寄せ、松岡と向き合った。
「ところで、筒川君」松岡がとくりとくりと湯呑みに酒を注ぎ、いつの間にかさばけた物言いになっていた。
「なんですか、松岡さん?」筒川も剛毅な笑みで上官に訊いた。
「君は此の近くの墓島の出身だそうだな?」
「辺鄙な島ですが、自分の故郷です」
「そうか……家族は?」
「……妻と娘を残してきました」
筒川が遠い目になるのを、松岡はぐびりと湯呑みを飲み干しながら見た。
「娘さんの名は?」
「はっ、島子です」
柔和な目になった松岡を、筒川は酒を飲みながら見た。
きっとこの男にも娘さんが居るんだな、不意に考えがよぎった筒川であった。
「ならば……なんとしても、護らねばならぬな」
松岡の独り言のような言葉に、筒川はこくりとうなづいた。
その通りだ。妻と娘は、自分の命に代えても護らねばならぬ。
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