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「先輩、今日飲み行きましょ」
響が行ってしまった後の初出勤。
ホテルの件に関してこちらから言葉にする前に間髪入れずに元木に飲みに誘われた。
「いや、お前…」
「どうせ家にいたって響居なくて凹んでグズグズ泣くんでしょ?実質今フリーみたいなもんじゃん。たまには可愛い後輩の誘い乗ってくださいよ」
こちらの言い分など聞きもせず、メッセージに予約済みの居酒屋のURLが送られてくる。
「楽しそうな写真撮って送り付けてやりましょ。嫉妬ケージ今のうちにために貯めまくって次あった時抱き潰されてくればいいじゃないっすか」
耳元でとんでもないこと言ってくれる。
「おまえ、からかうのもいい加減に…」
「うわあ、顔赤くしちゃって、朝から見せつけてくれますねー」
「なっ」
鏡が手元に無いので否定も出来ない。
「あ、朝礼っすね。じゃあまた」
朝の朝礼開始のアナウンスが入り、今やっているプロジェクトチームのリーダーの居るデスクに元木は行ってしまった。
自分も部署ごとの朝礼に向かう。
調子を狂わされだか、元木なりの気遣いだろう。
実際に家にいたらグズグズになっていたかどうかで言えば、やはりグズグズコースだった。
「桜井さん、本日のスケジュールは?」
はたっ、と我に返る。
部署のメンバーの視線が自分に集まっていた。
「あ、すみません。本日のスケジュールですが午前は10時から商談が…」
手が滑ってしまい、ボールペンを落としてしまう。
しかし拾おうとするも、腰が痛くてスグに屈めない。
「おい調子悪いのか?」
同期の笹倉がペンを拾ってくれた。
「悪い。少し」
「商談大丈夫か?俺午前フリーだから、代わってやれるぞ。今回のお取引先様、前に別件で俺も面識あるし」
大丈夫だと伝えるも、周りもその方がいいんじゃないかと後押しされ、結局笹倉に借りひとつとなってしまった。
「悪い。助かる」
「いいって。この前インフルエンザなってたし、まだ本調子じゃないんだろ?その代わり今度飯付き合ってよ」
「…わかった」
すると笹倉はきょとんとした表現
「どうした」
「あ、いや?なんか珍しいなって。あ、うん。じゃ、店決めとくわ!」
ヒラヒラと手を振って笹倉は商談スペースへと向かって行ってしまった。
「………」
「なーに妙なフラグ立ててんすか先輩」
「わっ?!」
笹倉の背中を眺めていると横に元木が腕組みをして立っていた。
「なんだよ。なにがだよ」
「いいのかなー。響の嫉妬ケージ貯めろとは言ったっすけど、そっち方面はアウトじゃないっすかねえ」
「ただ飯の約束しただけだろ?しかもアイツは同期だし、何年の付き合いだと思って…」
「俺が何年アンタに変な虫が付かないようにしてるかしらんだけでしょーが」
は?
「ま?約束しちゃったんすから。別にいいですけどね。自覚持って自衛してくださいよ?」
ふいっと元木もその場を後にしてしまう。
なんだよ。
なんなんだよ。
嘉人は意味が理解出来ず顔を少し顰めた。
しかし、そこからだった。
「桜井さん!」
「さくらーい!!」
「サクライ君さ」
「嘉人さん」
妙に周りから声をかけられたり、
誘われるようになった。
この時嘉人は気付いていなかった。
元々幼少期から男女共に焚きつけるオーラというのはあったのだが、響が離れたことにより未亡人のようなオーラが更に加わり人を惹き付ける魅力が更に高まってしまっていた。
しかにそんなこと当の本人は無自覚。
「魔性ってこうゆう人に使うんだろうな…」
「どうした。なんか言ったか」
「べっつにー?なんでもないっすよ」
給湯室横の休憩室で昼食を一緒に済ませながら元木は面白くなさそう。
「別の奴らとのカップリングは俺的に地雷なんで。ホントに勘弁してほしいなって思ってただけです」
何をいっているんだ?
「コレで無自覚はタチ悪いよなあ…俺も司さん居なかったら危なかったわ」
「なに、呼んだかい」
元木は背後を取られ、飛び上がる。
「部長、居たんすか…」
「ああ、たまたまな」
嘘つけ、さっきまで部門長の会議だっただろうから迷いなく直行してこないとまだこんな所来れるはずがない。
「はい、今日の弁当。朝忘れてったっしょ」
「ありがと。会議だからって昨日から仕込んでくれてたのに申し訳ないね。嬉しいよ」
周りに誰もいないことを確認して弁当袋を部長に渡す元木。
今の嘉人にはそんな2人の些細なやり取りも羨ましかった。
「悪い元木、俺先に席戻るわ」
「え、ちょ」
大人気ないと思いつつ、嘉人は弁当箱を片付け休憩室を後にするのであった。
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