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「桜井、おい、大丈夫か?」
・・・。
ハッとする。
同期の笹倉が俺の顔を覗き込んでいた。
「悪い。ぼーっとしていたのか俺」
「寝不足?」
「いや、申し訳ない。大丈夫だ。続けてくれ」
バツが悪すぎる。
先程の元木と部長のやり取りが少しばかり羨ましくて、思い出していただなんて言えやしない。
更に、笹倉には商談を代わってもらった借りまであるのに。その商談結果の共有中に他のことを考えてしまっている自分。
情けなさ過ぎる。
そこからは気を引き締め直し、無事に引き継ぎを終えた。
「本当に助かった。ありがとうな笹倉」
「なんだよこれくらい。照れくさいからやめろって」
笹倉とは入社時研修の頃からの仲だ。
研修の班わけが苗字順だったこともあり、同期の中でも何かと縁があった。
「そういやメシ、今日とかどう?」
「あ、えっと。悪い、今日は」
「そうそう!先輩は今日は俺と飲みに行くんで!」
どこからともなく現れた元木に肩を組まれる。
「おいっ」
鬱陶しい腕を剥がそうと肘打ちをしようとするが、
ヒラリと慣れたようにかわされる。
「なんだ、じゃあ俺も良いだろ一緒に行っても」
「「え」」
「なんだよ、ダメなのか?」
何だか妙に笹倉の押しが強いことに嘉人と拓海は1度顔を合わせて再び笹倉の方を向く。
「いや、ダメって言うか、笹倉さんいいんすかー?確か溺愛のカノジョさんいたじゃないっすかー」
「その彼女とこの間別れたんだよ。だからオマエら慰めてくれ」
お互いに苦笑。
「うーん、まあ、そうゆうことなら?」
「ああ、というか、今日の商談代わってもらったんだから奢らせてくれ」
「じゃあ予約人数変更しとくっすね」
予約人数の変更の為、スマホを取り出す。
「ああ、悪いなモトキさん」
「あー!さんなんて付けなくていいですよ、俺年下だし、それに硬っ苦しいのヤなんでやめてください」
「ふふっ、そうか。桜井の言ってたとおり生意気な奴だな」
「そーっすか?そんなつもり全然ないっすけど?」
流石の嘉人でも2人の間に漂うピリピリとした空気は伝わっていた。
「今日やめとくか?」
「「いやいや、それは無い」」
笹倉としては、同期の中でも波長の合う嘉人の周りをずっっっっっっっと常にうろちょろちょこまか引っ付き回り、なかなか嘉人に声を掛けづらくしてきた元木を良く思っていなかった。
一方拓海は拓海で、
元々認めた奴以外は近づきたくないし近づけないナワバリ意識高い系男子なので笹倉が嘉人に近付こうならば出来るだけ遠ざけようとしてきた男だった。
そしてそんなことは知らない嘉人。
(響、大阪で元気にしているだろうか・・・)
2人がバチバチと火花を散らしている中、
やはり響の事が気がかりでしょうがないのであった。
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