番外編『貪欲』

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―――・・・ 「ほら、そろそろ焼けるぞ」 拓海と笹倉がバチバチとお互いに牽制しているのを他所に、嘉人は運ばれてくる肉を手際よく焼いていた。 本日元木が予約していたのは焼肉屋。 お高すぎるのは相変わらず嘉人が嫌がるので一般的なお店。個室。 これも拓海なりの気遣いだった。 手を動かす時間があれば寂しさも少しは紛らわせられるのではと。 ただし、二人っきりだったらの話だった。 「俺の何が悪かったんだろなー。くぅぅ」 笹倉、意外に泣き上戸と判明。 完全に笹倉の励まし会になっていた。 「だーからといって、先輩に引っ付いてよしよしされるのは違うでしょーっ!離れろ!」 席決めジャンケンで負けた拓海は向かい側の席から笹倉に箸を向ける。 「元木、行儀悪いぞ」 右手で肉を焼きながら、左手で笹倉をヨシヨシし、焼けた肉を拓海の皿にのせる。 「せんぱーい」 「お前、ホルモン駄目だったか?」 「大好きっすけどぉ」 焼き加減完璧のホルモンを渋々口にする拓海。 「どうだ?」 「うまいっすぅ」 なら良しという表情が正にお兄ちゃん。 天然人タラシ。 「笹倉、少しペース早過ぎないか?お冷いるか?」 「うぅ、大丈夫だ」 返答とは裏腹に嘉人はお冷を頼む。 「絶対この人わざとっすよ。騙されないでください先輩」 「大切な人から振られたんだ。大目に見てやれ」 「そうっすけど・・・」 「ほら、お前の好きなハラミも焼けたぞ」 「うー。ありがとうございます」 別に好きと公言した覚えは無いが、恐らく過去に焼いてもらったのを嬉しそうに食べたのだろう。 最早兄というか母。 「桜井~」 「せんぱーいっ」 笹倉、実は次男坊。 拓海、末っ子。 「はいお冷。ほら、野菜も食べろ」 完全に2人とも嘉人にあやされていた。
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