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―――・・・
「わあ、種類沢山ありますねー!迷うなあ」
乾杯を済ませ、お通しも到着したので中村さんから渡されたメニュー表を見ながら目をキラキラさせる。
「そうやろー?オススメはチューリップと紅しょうがとー」
「どっちも食べたいです!あと山芋!山芋食べたいです」
「いいねえ、桜井クンも同じの頼む?課長はいつもので大丈夫ですか?」
波長が合うのか、中村さんと三嶋さんはメニュー表を見ながらキャッキャと盛り上がる。
一方響は課長と横にすわり、何を話したら良いか様子を伺っていた。
「桜井」
「は、はい!」
「動物は好きか?」
はい?
聞き間違いかと思ったが、課長はおもむろにスマホを取り出す。
画面にはキジトラの猫。
「とら子だ」
「かわいいですね」
まだキャラを掴みきれてはいないが、
今野課長は口数はそこまで多くない。
面談をした時に感じたのは人を寄せ付けないような雰囲気ではなく、
むしろマイナスイオンが流れていそうな雰囲気。
『休み希望とかあれば早めに行ってね』
今日の面談もそうだった。
『えっと』
一通り話が終わり、最後に言われた。
『こっちに連れて来れない相手って事だから、お相手も今働いてるでしょ?相手土日休み?時期にもよるけど早めに言ってくれれば調整聞くから直ぐに休み希望は相談しなよ』
偶に鋭い一言を言ってくるような、そんな感じ。
ちょっと不思議な人。
いま、そんな上司に上司が愛猫ちゃんにちゅるーるを赤ちゃん言葉であげている動画を見せられている。
「すまん。音は聞かなかったことにしてくれ」
「はい」
ダメだ。思わず笑ってしまった。
「桜井クン、課長になに見してもらってんの?」
思わず吹き出した俺に気付き、中村さんも三嶋さんもこちらを向く。
「可愛い動画です」
「あー!それ、課長の赤ちゃん言葉の!」
「コラ中村」
「いやいや、むりっすよ、課長。腹よじれましたもんソレ」
「えー!私もみたいです!」
「三嶋サン大丈夫。あの動画前に課長から送って貰ってるから見れるよ。ほら」
「わー!猫ちゃんかわいい!って、えっ、課長かわいいーっ」
キャッキャとまた2人で盛り上がる。
課長は表情はあまり変わらないが少し気恥しそうにレモンサワーを口にする。
そうこうしていると、串カツが運ばれてくる。
「こんちゃん、なかちゃん、ごめんなさいね、スグ顔出せなくて」
綺麗な女性の方だ。母と同年代くらいか。
「あれ?店長今日居ないって聞いたのに」
「ほら、先月オープンした2号店の方に顔だしてたのよ。あっちの店長この前インフルにかかって、今日戻ったから引き継ぎ」
話しながらも手際よく料理をテーブルに置いて行く店長さん。
「こんちゃん、飲み物なんにします?」
何故か空になりかけのレモンサワーグラスを持ったまま硬直している課長。
「おなじので」
「はいよ!」
空になったグラスを受け取り、店長さんが戻っていく。
えっと?
「コラ中村」
「まだ何にも言ってないじゃないですか~」
「「えっと?」」
三嶋さんと同時に課長を見て中村さんの方を見る。
「見ての通り、課長、ここの店長にホの字なんです」
「はい、お待たせしました」
反応する前に店長が戻ってきてレモンサワーを課長に渡す。
「ありがとう」
「すみませーん!」
「はーい!じゃあ皆さんごゆっくりね~」
店長さんは何か話しかけようとしていたが、注文を取りに席を離れていってしまった。
「えーっ、中村さん詳しく!!」
「とりあえず、串カツ食べながら話そか~」
熱々の串カツを手にして2度漬け禁止のソースに潜らせる。
「それもそうですね!いただきまーす!ほら桜井もたべよ!」
「ああ、うん。いただきます」
課長は何も言わず、顔を少し赤らめながらレモンサワーを口にしていた。
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