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世間は少しずつ、変わってきているのかもしれない。
『どうだった歓迎会』
スマホの充電が切れてしまい、帰宅して急いで充電する。その間にシャワーを浴びてくると、嘉人からメッセージが届いていた。
『うん、楽しかったよ。俺以外皆女性だから、ちょっと不安だったけど、皆気さくだしいい人達だよ』
2時間前に届いていたメッセージだったので、
電話はかけずにメッセージで返したところ、直ぐに既読がつき、着信がかかってきた。
「もしもし」
『職場、女性ばかりなのか』
嘉人だ。
心配そうな声を他所に思わず笑みがこぼれる響。
「うん、でも多分大丈夫そうだよ」
『・・・・・・』
「俺、別に性別で人に惚れてる訳じゃないから」
『でも』
「むしろ、もしかしたら俺達に理解あるかもしれない」
『?・・・まさか、カミングアウトしたのか?』
「ううん。してないよ。ただ、上司が同じような方かもしれない」
『・・・そうか』
「大丈夫、そうだとしても俺達のことは言わないよ。だから安心して」
『・・・分かった』
電話をしながら、響は他のメッセージが来ていないか確認する。
「・・・・・・ねえ嘉人。もうお風呂入ったの?」
『?、ああ。さっき入ったよ』
「そう、テレビ電話に出来る?」
『ああ、分かった』
嘉人はビデオ通話ボタンを押す。
画面にお互いの顔が映る。
何だか変な感じだ。
響の顔が見れて自分の顔が綻ぶのが見える。
しかし、気のせいか響の方は表情が少し暗く見える。
「ねえ嘉人。俺にちゃんと見えるようにして、手洗ってもらってもいい?」
『?』
嘉人は違和感を感じつつ、洗面所に向かう。
そして気づく。
『もしかして、元木か?』
「この男の人誰」
『同期の笹倉だよ。彼女に振られて、慰め会してきた』
元木からのメッセージに『浮気現場!!』と言うメッセージと一緒に涙でグチョグチョの笹倉を介抱する嘉人の姿が写った写真が添付されていた。
勿論、画像の下には『冗談だから怒んなよ』と補足は書いてあった。
『・・・・・・ごめん』
画面に映しながら黙って手を洗ってみせる。
「ごめん」
『お前は悪くない。俺もお前の職場が女性ばっかって聞いて焦って電話してるし。俺も多分されたら同じこと思ってる』
「嘉人・・・」
『ん?』
「ごめん」
『だから大丈夫』
「いや、・・・そうじゃなくてさ。俺、今回の異動、少しだけ、ほんの少しだけ優越感みたいなのがあった」
『?』
「嘉人から、俺の方から離れて行くの、初めてでしょ?嘉人、俺が離れたらどれくらい悲しむんだろって、期待しちゃってた」
『ひびき・・・』
「強がってカッコ悪いね俺。元木さんからの写真で今凄いイライラしてる」
『ひびき、ごめん。悪かった』
響が無言になってしまう。
『どうしたら、許してくれる』
よく見ると蛇口は右を向いていた。
この寒い中、嘉人は冷水で手を洗っていた。
「もういいよ、嘉人。手洗わなくて良いよ」
『どうしたら許してくれる?』
手が真っ赤だ。
『なあ。ひびき』
「・・・・・・」
『ひびき』
「・・・・・ひとりでシてるところ見せて」
『・・・・・・』
「・・・・・・」
『・・・わかった』
嘉人は蛇口を止めた。
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