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親父に外出を告げて家を出てきた俺は、自転車を停めてその建物を見上げた。
『アパート松丘』。
夜目にも年期の入った佇まいだったけれど、メモに記されていた名前に違いなかった。
電話で教えてもらったのは、確かにここの三階だけど……。
ベランダ側に回って停めてと言われていたのだが、辺りには誰もいない。
「ん」
名前を呼ばれた気がして頭上を見上げると、三階のベランダから誰かが手を振っている。
「長塚君、こっちー」
朝倉の声だった。
「うわー、嬉しい。てっきり破り捨てたんだと思ってた」
笑顔で部屋に俺を案内する朝倉の声は、弾んでいた。
「お邪魔します」
一方の俺はあえての無表情。
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