新人さんお手柔らかに

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それに、と一呼吸おくと、嶺川さんは再び話し始めた。 「父と話されたなら、もうご存知かと思いますけど……、うちの家業のこと。 私、ずっと父に言われるまま結婚して、うちを継いでって、そういうの嫌だって思ってました。 でも、どうしても父に言えなくて……。 とにかくどこかに就職しなきゃ、って焦ってる時に坂崎課長と出会って、勝手に運命感じちゃって。 今思うと、ホントに馬鹿みたいですけど、この人なら私にもっと違う世界を見せてくれるって思い込んじゃったんですよね。 ……でも私、わかりました」 私を見つめる嶺川さんの瞳に宿る力は強く、淀みがない。 「違う世界を見たいなら、自分で頑張らなきゃ。 紺野さん見てたら、そう思ったんです」 「嶺川さん……」 「だからもういいんです、課長のことは。 ……私も紺野さんみたいに仕事に生きようかなぁー」 「そっ、それは……」 ここで同意したら、たぶん私は一生ヤノケンに恨まれる。 「ふふ、冗談ですよ。 でも、やっぱり今は恋愛する余裕なんてないなー」 くすりと笑う嶺川さんに、ひょっとして私、からかわれてる? 坂崎との二週間は、嶺川さんを本当に変えてしまったらしい。 坂崎は一体どんな手を使ったんだろう?
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