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「これが一番似合うかも」青年は微笑んだ。
窓硝子に反射して見え隠れする顔にはまだ幼さが残っている。
高級店が列なる通りにあったアンティークショップのウインドウを覗きながら腕時計を確認する。閉店まで残り5分しかない。
「よし、決めた」
青年は掌を握り締め、勢いよく店内に駆け込んだ。
いらっしゃいませ、と静かに響く声。その先にいたのは白髪の老婆だった。
「あれを包んで下さい」
青年はウィンドウの方を指差した。
贈り物ですか、と聞かれた青年は少し照れ臭そうに、えぇそうです、と頭をかきながら答えた。
「喜んで頂けると思いますよ」
老婆は青年が指差したそれを両手で持ち上げレジに持ってきた。
青年はふと、気付いた。あれは幾らするんだろうかと。
財布の中にある全てのお札を確認し、老婆を見る。
「あの、おいくらですか」
だが一目惚れをてしまったのだ。後には引けない。
まるであの人と初めて出会った時みたいだ。
甘く懐かしい感情で心が満たされる。
老婆が差し出した値段は、財布の中身丁度だった。
まるでその額を予め知っていたかのように思えてしまう。
青年は支払いを済ませ品を持つと、出口に向かった。
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