7人が本棚に入れています
本棚に追加
青年は店の前で立ち止まったはずだった。しかし店は見当たらない。
「やっばり騙された」
溜め息を付きカバンの中から半片のグラスを取り出しす。
すると、突然背後から声を掛けられた。
「そのグラスはもしかして」
青年はその声のする方に振り返った。
そして、目を見開いた。
何故ならば、そこにいるはずの無い先生が居たから。
「っ、せんせ?」
声が震えて上手く言葉が紡げない。
すると相手は不思議そうな顔をしていた。
「先生って、やっぱりそうみたいですね」
私の顔を見て驚くとは、と笑うその掌には半片のロックグラスがあった。
「実は今日この場所で、渡して欲しいと託されていたものがあります」
青年は手紙を渡された。
中身を確認すると、先生独特の筆跡で書かれた一文があった。
『ロックグラス、有り難う。
月が奇麗な夜に、
君の幸せを願う』
「月が奇麗って」
「そういえば、かの有名な夏目漱石が『アイラブユー』を『月が奇麗です』と訳したらしいですよ」
先生にそっくりな人が微笑んだ。
先生、俺はあなたに、愛されていたんですね。
「俺も、愛していました」
青年は手紙を胸に抱き締め泣きながら、震える声で小さく呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!