綺麗な月

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青年は店の前で立ち止まったはずだった。しかし店は見当たらない。 「やっばり騙された」 溜め息を付きカバンの中から半片のグラスを取り出しす。 すると、突然背後から声を掛けられた。 「そのグラスはもしかして」 青年はその声のする方に振り返った。 そして、目を見開いた。 何故ならば、そこにいるはずの無い先生が居たから。 「っ、せんせ?」 声が震えて上手く言葉が紡げない。 すると相手は不思議そうな顔をしていた。 「先生って、やっぱりそうみたいですね」 私の顔を見て驚くとは、と笑うその掌には半片のロックグラスがあった。 「実は今日この場所で、渡して欲しいと託されていたものがあります」 青年は手紙を渡された。 中身を確認すると、先生独特の筆跡で書かれた一文があった。 『ロックグラス、有り難う。 月が奇麗な夜に、 君の幸せを願う』 「月が奇麗って」 「そういえば、かの有名な夏目漱石が『アイラブユー』を『月が奇麗です』と訳したらしいですよ」 先生にそっくりな人が微笑んだ。 先生、俺はあなたに、愛されていたんですね。 「俺も、愛していました」 青年は手紙を胸に抱き締め泣きながら、震える声で小さく呟いた。
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