天に曇 さみだれ映ゆる 児に涙

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<季題> さみだれ <季節> 梅雨 天: あめ。「てん」ではない。 「雨」との隠喩的掛詞も成す。 に: 格助詞。与格。 言うまでもなく、省略された述語動詞は「あり(有り、在り)」(同下句)。 曇: くも。気象を表す「くもり」ではない。しかし天空全体を覆う雲は表す。 また、鮮明爽快な白ではなく、鈍重陰鬱な灰色を想起せよ。 さみだれ: 一般に「五月雨」と綴るが、現行太陽暦では6~7月が梅雨期にあたるため仮名表記とした。梅雨そのものも、時期特有な持続する小雨も指す。 別綴として古来の「早水垂」があり、句想と字義の一致に鑑みてこの綴りこそを思念すべきやも知れない。 映ゆ: 連体形「映ゆる」は、上句「曇」並びに下句「涙」を同時に修飾する。 それぞれにさみだれが(もしくはそれぞれがさみだれに)「映じ」、また「栄じ」、そして詠み手(筆者含)は「詠じる」、という形で読み換えによる象徴的掛詞を成す。 児: こ。「子」としても好いが、ここでは特に性別不問な年少者を指す。即ち、弱小者の象徴。 転じて、老婆や青少年を除いた、「(人の)子」との解釈も可能。壮士や老爺さえも含まれるものとする。 涙: 何を思ったが故の涙かは、敢えて不問とすべし。 荒れる天候(前頁括弧内捕捉文参照)への筆者の狼狽や、 (文字通り)不快な天候への幼児のぐずりや、 さもなければJ.レノン『Because』第三連に見られる「故なき涙」等々、 様々な解釈が妥当し得る。
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