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家に帰ると陸はゲームをしていた。僕は画面の前に立ち塞がり先程の出来事を陸に報告する。
もちろん、冷静に。
胸はドキドキしているけれど、さっきさー!と興奮して話してはだめだ。
貴重な体験の価値がなくなってしまう。それに僕が話したところで陸の悩みが軽減するかは解らない。
大したことじゃない。でもこんなことがあったと僕はスラスラと話した。
冷静に。
つまらなくなってしまった日常に訪れた些細な出来事を。
「その人が言ったんだよ!
ありがとなボウズ…って!」
「へー。それってその人のマネ?」
「そう!」
「空、嬉しそうだね」
「だってすごくない!?みんなが見てるのに!本当はワンパンで吹っ飛ばせるはずなのに!」
「うん。すごい。すごいけどちょっと落ち着いてよ」
「は?落ち着いてるけど!」
「僕のプリンは?アイスは?」
「…」
「あとポテチね。コンソメがいい」
「…行ってきまーす」
いってらっしゃいと笑顔で手を振る陸の顔を僕は見ることができなかった。
僕の顔はきっと赤いから。
陸を励まそうと思ったのにそれすら忘れていた僕を、陸はどこか冷めた目で見ていた様な気がすると気付いたのはコンビニでアイスを選んでいる時だった。
ガラスに薄っすら映る僕はやっぱり、どこから見ても等身大の中学生だった。
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