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A=より。豪と幸 ~朝のお見送り~
「幸、幸ー?」
幸せそうな寝顔に思わず頬を弛ませながら、一応声だけは掛ける。
これで起きない方が悪い。
目覚ましより三分だけ早く起こしに来て、幸の寝顔を見るのが最近の日課だ。
初めて会った頃より随分立ち居振舞いは大人びて来たが、寝顔はまだまだ幼い。
けたたましい電子音のアラームに、幸が小さく声を漏らしながら薄く目を開けて。
「……豪?」
「おはよう、幸。」
「……また寝顔見てたんですか……変態ッ」
「ふはっ、幸が可愛いのが悪いと思いますがね」
寝惚けながらも俺を認識すると、小さく唸りながらタオルケットに顔を半分隠しちまう幸が堪らなく可愛い。
「幸、飯が冷めちまうんで早く顔洗って来て下さい」
「う、分かったよバーカ!」
跳ねるように飛び起きて、そのままズカズカと洗面所に向かう幸の背中を見詰めながら思わず笑みが溢れる。
平和ってのはこういうのを言うんでしょうね。
「豪、今日の朝御飯は?」
「リクエスト通り和風にしてみましたが、どうにも日本食は苦手ですね」
外国暮らしが長かったもんで、日本食ってヤツにはまだまだ疎い。
取り敢えずはスタンダードに、米と味噌汁に焼き魚。しらすと葱を乗せた冷奴に納豆。本当はもうちょい野菜も使いたかったんですが、時間の関係で断念。
パッと思い付く和の野菜料理が無かったもんで。
今度レシピ本でも買ってみますかね。
美味い美味いとたいらげる幸を見ながら、俺は弁当を拵える。
朝飯に出せなかった分。茸類を使った野菜炒めとアスパラベーコンに、冷凍モンのミニハンバーグ。
手抜きじゃあない。リクエストだ。
朝からハンバーグを作る手間を考えて欲しいもんですね、まったく。
制服に着替えた幸が、鏡の前で最終確認。
「ハンカチは持ちました?」
「はいはい、全部持ちました。母親じゃあるましい一々聞かないで下さい」
「ふはっ、母親じゃなかったら。父親ですかねぇ?」
背中から声を掛けると、むくれながら振り返る幸。その言い種が面白くて、ついつい意地悪を言っちまうんですが。
「……彼氏、です……」
「よくできました、それじゃあ。行ってらっしゃい」
照れながら言う幸に朝からやられちまって、俺はちょっと屈んでキスをする。
「……もう!バカっ!行ってきますっ!」
やれやれ、真っ赤な顔のまま何処に行くのやら。
(了)
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