第八章

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「そっちはどう?」 『ふつう』 ふつうって、どうなんだろそれは。 「おれはね、毎日寝てる」 聞かれてもないのに、なんか喋りたい気分だった。 そっか、 という善ちゃんからの返事は、善ちゃんの表情も想像できてしまうくらい優しいものだった。 『夏だからってお腹出してねると風邪ひくよ』 風邪ひくよって、善ちゃんはずっと言う。 風邪ひくまえにちゃんと俺に注意してくれる。 そう思うと なんか 「善ちゃんいまそばにいないんだねえ」 寂しいと実感してしまった。 『…うん』 なんか雰囲気が暗くなってしまったことに後悔して、わけもわかんないまま、ひたすらしゃべった。 なにしゃべったのかもわかんなかった。 『じゃあ俺、明日もインターあるから寝るね』 ずいぶん短い時間、とおもったが意外にも2時間たっていて、 電話の向こうで善ちゃんがあくびしたのがわかった。 「うん、おやすみ」 『次郎、』 俺はあしたも、あさっても、寝てすごすんだろうな ぼんやり思っていると優しく名前をよばれた。 「なにー」 『好きだよ、次郎』 ささやかれた言葉に固まってしまった。 言われたのは初めてじゃない 初めてじゃない、けど 「っ、うん、」 ここに善ちゃんがいなくてよかった。 そう思えるくらい顔が熱かった。 じゃあね、と電話を切られてからもしばらくその体制で固まっていた。 「…なにあの甘い声…」 まくらに顔をうずめて、けいたいをにぎりしめて、 おれはねた。
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