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「そんで何て断るんだよ?」
うーむ、と大袈裟に悩んだふりをする玉木。
「断らないな、俺だったら。とりあえず付き合ってみる」
一瞬、呆気にとられた。とりあえず、なんてそんなのアリなのか。
玉木はモテる。この前も同学年の誰それに告白されたと自慢げに語っていた。
顔立ちは整っていて、さらには運動もできるから、女子からの評判が良いのも当然かもしれない。
「まあ、コイツとはどうしても付き合えねぇと思う奴には、相手を思いやるそぶりを見せて断ればいいんだよ」
ま、そぶりだけどな、と続けた玉木の言葉を受けて、山田が大口を開けて笑う。
相手を思いやる、そぶり。そぶりで良いのか。
玉木が違うクラスの誰それさんを振った時のことを面白おかしく話しはじめても、そんな疑問が浮き上がってきたまま、沈まない。
そのままボンヤリと玉木の話に耳を傾けて、校門から出る。
ここから玉木と山田とは別れる。玉木と山田は左に。俺は右の道へ。
じゃーなー笹山、と言う玉木に、またなと返す。彼女できたら教えろよー、と言ってくる山田に、分かった分かったと笑いながら返す。
昨日までとほとんど変わらない日常。部活の帰り道。玉木と山田と馬鹿な話をして、笑いあう。
半袖の制服も湿った空気も、部活後シャツの下で汗が滲むのも変わってないのに。
胸の中で何かが重く残ってる感じが、いつもと違った。
アスファルトの道を歩きながら、視線を上に向ける。
黒色へ近付く空に、まだ月はなかった。
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