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◇ ◇ ◇
「えっ」
中原が驚いたかのように声を上げる。
放課後の教室。窓から差し込む茜色の光。昨日に続いて、今日も俺は足を踏み入れた。
「笹山くん……なんで? 部活は?」
「用事あるからって早退させてもらった」
そっか、と中原が呟いた。いつも放課後、勉強してると言っていたから今日もいるはずだと思ったが、その通りだった。
窓際の一番後ろの席に座っている中原の所へ歩いていく。
言おう。ごめんって。昨日、酷いことしてごめんって。
中原、と呼びかけようとした瞬間だった。
「昨日のことだけどさ」
やけに震えた声で中原が話し出した。
「な、なんだよ」
まさか中原から、その話を切り出すとは思ってなかった。
「あれ全部冗談なんだよ」
「はあ?」
思わず大きな声で聞き返してしまった。
「冗談って……何言ってんだよ? 意味が分かんねえ」
別に、と中原は机の上に置かれたノートを見つめながら答える。
「笹山くんがどういう反応するかなって、そう思っただけ」
震えた声のまま、俺のほうを見ようとしないまま、そう答える。
昨日の中原は、そんなことを考えてるようにはとても見えなかった。自分の気持ちに従って、思わず行動してしまったという風だったのに。
「だから……ゴメン」
机のノートを見つめたまま、中原は言った。
あっ、と思わず声が漏れそうだった。まるで電流がパチリと頭の中で弾けて、体全体へ巡っていくような感覚がした。
こいつ。嘘を言ってるんだ。
男なのに男が好きだなんて思われたくないから。自分がした告白をなかったことにしようとして。多分、俺がひどい拒絶をしたから。
玉木の言葉が脳内で点滅する。『相手を思いやる』
相手を思いやって――
「……そっか。そうか」
バンッと何かが破裂するような音が聞こえた。発砲音だ。俺の口から。飛び出た。何かが。言葉の形をした何かが。名前は分からない。これで良かったのかは分からない。
だけど放たれたものには、なんの中身も詰まってなんかいなかった、きっと。
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