第1章

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小銭がそれなりに入った財布を重しにしてベンチに置いた紙が飛ばないようにした。ホームに人はまばらで、私の周りには誰もいなかった。 直前で脱げるよう、あらかじめ靴のかかとは踏んでおいた。特急電車通過のアナウンスが流れた。私の頭で、秒読みが始まった。 残り5秒のところで靴から足を抜いた。 「なあ」 それと同時に後ろから声を掛けられた。 心臓が飛び出すかと思った。というか体が飛び出すようにつんのめりかけた。 「おっと」 声の主は私の肩をつかみ、引き戻す。 結局、電車は私にかすりもせずに行ってしまった。 私はとっさに彼を睨み付けた。すると彼はたじろぎながらも「電車での自殺ってすげー痛いらしいよ」と言った。 「だからさ、」彼はこう続けた。「楽で痛くない自殺の方法を、一緒に探さないかい?」
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