第1章

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21/騙しあう者たち 1  空気がこれほど重く冷たいものだったのか…… その場にいた人間全員が息苦しさと戦慄で身を震わせていた。  拓は右手で抜いたコルトM1991A1を寸分もブレさせることなく、銃口はしっかりと6m先にいるサタンこと村田を捉えていた。もし村田の前に銃を突きつけられた涼が居なければ45口径弾はとっくに村田の脳天を撃ち砕いているだろう。  両者、全く動けなかった。  村田は拓に動く事を許さなかった。もし拓が少しでも動き位置を変え涼に当てることなく村田を狙撃できるポイントを掴めば容赦なく拓は狙撃する。6mという至近距離であれば拓の腕ならば黒目を狙い撃ちすることができる。村田もそれが分かっているから涼を盾にし、彼女の頭につきつけた銃を見せることで拓を牽制している。  しかし動きだけだ。口は両者共なめらかだ。 「そりゃ僕も怖いですよ。でも、分かってもらえますかね、あんまり僕は無視されると困るもんで」 「随分勇気があるんだな」拓も口は動く。 「生きて帰れると思っているのか?」 「だからまず人質を取ったわけです」 「状況が朝の時と違うぞ?」 「そう、仰るとおり! 今、ここにはサクラ君はいないから捜査官とゆっくり話ができるってワケですよ」  そう言って村田は苦笑した。さすがの村田も知力を含めサクラには敵わないということを認識している。サクラは知力が高いだけでなく独断的で得体の知れない圧倒感がある。サクラには拓のような法執行官としての責任や倫理はないし、発想力は運営側の想定を外れる。運営側にとって予想以上にやっかいな存在だった。深慮遠謀なのか場当たりなのかそれすら分からない。しかしサクラが意図している事はすべてサクラに有利に働く結果になっている。 「俺も甘くみられたもんだ」  拓はニコリともせず答える。実際、サクラに対する村田の認識や自分に対する評価も正しい。今、こうして狙いを定めるだけで引き金を引けない……この事実こそ拓とサクラの違いだ。サクラならば……サクラにはそこまでの射撃力はないが……村田が撃とうが撃つまいが問答無用で村田に襲い掛かっただろう。もし襲い掛かる自分に銃口が向けば涼は助かるし、もし不幸にも涼が撃たれた瞬間サクラは村田をなんらかの方法で倒している。涼を撃つということはファーストステップでは村田はサクラを撃てないということになるからだ。
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