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拓には無理だ。涼の生命に危険がある、と村田と涼の二人を見た瞬間に判断、動きを止めてしまった。拓にはもう持久戦しかない。
「サクラたちは……どうやら目的地に着いたらしいな」
「でなければ僕がここには来ません」
「そんなにサクラが怖いのか」
「怖いですね。それもあるし、これからきっと僕たちが用意した<特別ボーナス・ゲーム>に突入するでしょうが彼女のことです、こっちの想定外の行動でゲーム・ルール通りプレイしてくれるとは限らないと思いまして…… ならばこのゲームを執り仕切る僕としても手を打たないといけませんからね。人質と……武器を少し頂こうかと思いまして」
「………………」
「全部は頂きません。人質もね。僕は貴方のことも過小評価はしていませんから」
「………………」
そう、そこが村田の尋常ならざる点だ。拓の性格をよく研究している。もし村田が卑劣に徹しここにいる全員、武器まとめて持っていこうなどすれば拓のスイッチも切り替わるだろう。そうなれば村田だって拓に殺される。欲張らないことで拓の譲歩を引き出そうとしているのだ。
「一応これが、できる唯一の妥協だ。彼女を放せ、その代わり俺が人質になる。陳腐で俗な案だけど、効果が高いから俗になると思う」
「成る程。俗ですがその事自体は面白いかもしれません。しかし<天使>は人質にはできない、というのがルールですので残念ですが。それに高遠さんは『この場で貴方に撃たれないための盾』でこのまま私の手駒になると決まったワケじゃありません。チェックしたことは間違いないですが」
グッ……と村田は手にしているS&W M66を少しだけ涼に押し付けた。すでにハンマーはコックされ引き金に指がかかっている。ほんの少しの衝撃で引き金は引かれるだろう。
涼は表情を歪めた。恐怖より自分の非力さにだ。どうしてまた自分は人質にとられてしまうのか……どうして村田の姿を見た瞬間叫び声をあげ逃げなかったのか…… そんな自分が嫌になる。だが、今動くことは出来ない。今涼がリアクションを起こせば事態は動くだろうが好転する可能性はない。もし乱戦になれば多く被害が出るだろう。そして一番最初に死ぬのは自分だ。
……私は……臆病だ……
涼は涙が流れるのを自覚したが、それを拭うことはできなかった。
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