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閉店前の午後8時の学食は、ひどく静かだった。
食堂のおばちゃんにカレー大盛りを頼むと、余り物よとカツをどんとのせてくれた。
実に素晴らしい。
横で奢ってやったと踏ん反り返ってる友人に、このオモテナシ精神を是非見習っていただきたい。
「いただきます」
「よろしおあがりー!さあ食え!食って俺に民法を教えろ!」
僕は華麗に無視をしつつ、カツカレーライスにスプーンを入れる。
……あ、このカツ、サクサクだな。
ドロリとした濃いカレーによく合う。
無心でがっついて食べていると前のやかましいガヤが急に静かになっていることに気付いた。
少し悲しそうな顔で僕を見ている。
僕は、何故かひどく不安になった。
「何かあったのか?」
「ああ、なんで今目の前にいるのがかわいい女の子じゃなくて男のお前なんだろうって」
心配したのが間違いだったようだ。
ああ、なんで今目の前にいる奴はここまで勝手で阿呆なんだろうな。
「俺、彼女が欲しい」
僕もこんなことしてる暇があったら彼女獲得に奔走したい。
「誰だよ、大学生になったら彼女ができるって言った奴、ぶっ飛ばすぞ」
僕も適当なことを抜かすお前をぶっ飛ばしたい。
「……そう言えば、祇園祭までに彼女ができなかったら、残飯組と呼ばれるらしい」
「嘘だろ」
思わず声が出る。
「おーおー、お前も澄ました顔してる割に、そういうの気にすんのか」
しまりのない顔でニヤニヤとこちらを覗く。
非常に気持ち悪い。
しかし、健康的な大学生男子たるもの、興味の無い方がおかしい。
例え爽やかなイケメンであっても、ベッドの下は男の夢で詰まっているはずだ。
残飯は嫌だしな。
……それにしても。
前の男をちらりと見る。
高槻大和。僕の地元の数少ない、友人。
こいつは、黙っていればなかなかのイケメンだ。
高身長で筋肉はしなやか、ラグビー一筋で、エースとして花園に出場し、この大学にもスポーツ推薦で入ってくる程の実力者だ。
人気者になる素質がある筈なのに、何故こうも僕に構うのだろうか。
黙っていれば彼女もできそうなものなのに。
黙っていれば。
……まあ、どうでもいいか。
最後のカツの一切れを頬張る。
数少ない友人のため、手早く済ませてしまおう。
「とりあえず、わからないところを言ってくれ」
「全部」
殴りたい。
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