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犬が好きだ。
何も血統書付きでなくて良いし、
大きくても小さくても関係ない。
ただあれほど賢く、従順で誠実な、
真っ直ぐ自分を見上げる存在を、
三上(ミカミ)智樹(トモキ)は知らなかった。
――あれは、裏切らないから。
それが一番大切だ、と智樹は思う。
だから、犬が良いのだ。
人間は容易く他者を裏切るから。
「三上部長、まだ残りですか?」
「いや、そろそろ終わる」
「あんまり初っ端から、
根詰めないでくださいよ。
みんな帰り辛いですからね」
小坂(コサカ)和樹(カズキ)の言葉に、
周囲を見回すと、
所在なさげに座っている者がちらほら。
上司が残っていては、
先に帰りづらいのだろう。
「印刷すれば、終わりだ。
戸締りは私がする。皆、帰りなさい」
「だってよ。帰るぞー」
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