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小坂が立ち上がると、
釣られて荷造りを始める社員たち。
彼は、専務の推薦で異動が決まった男。
振る舞いに特出したものはないが、
必ず輪の中にいる。そんなタイプだ。
仕事は出来る男なのに、
良くも悪くも印象は『平凡』。
しかし実のところ、『平凡』こそが、
最も努力で到達できる場所ではない。
特出するのは簡単だが、
溶け込むのは存外に難しい。
智樹のように、
端整で一目を惹く容姿をもつと尚更だ。
両親を見れば諦めるしかないのだが、
この外見で苦労したことは、
1度や2度ではない。
「帰るか」
最後の1人が出て行く背中を眺め、
智樹は独りごちた。
そもそも、今している作業は、
新規事業部のものではなく、
現在所属している経営戦略部のものだ。
そちらのオフィスでも良いのだが、
人気の無いこちらの方が、
人付き合いが面倒な智樹には、
好都合なのである。
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