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「専務」
エレベーターホールまで歩きながら、
智樹は頭を下げた。
「この度はお騒がせして、
誠に申し訳ありませんでした。
その上、早退まで……」
「早く行って落ち着かせてやれ。
僕が望むのはそれだけだ。
……鞠弥が心配するからな」
ほんの少しだけ。
よく見ていないと気付かないほど、
小さく専務は微笑んだ。
「物凄い愛妻家」と、
小坂が言っていたのを思い出す。
「あれが、『刺抜き姫』か」
「ぐふっ」
「まっすぐに人を見る子だ。
筋の通った子なんだろう。
……君が惹かれる気持ちは解るよ」
「いえ、あの、彼女は……」
「肯定しなくてもいいが、否定はしない方がいい。
君は自分がどんな顔をしていたか、知らないだろうから」
俺の――顔?
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