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「起きてー、起ーきーてー」
おっとりと間延びした声が寝室に響き渡る。それでも身体を揺すられる相手は全く起きる気配が無く、眠ったまま小さく呻くだけ。
「起きないとちゅーしちゃうからね?いいの?」
問い掛けるようでありながら。怒ると言うよりか、どちらかと言うと朝だというのにその声はどこかしっとりと艶やかに濡れていた。
先程から、起きてと言いながら身体を揺すってはいたが。本当に起こすのであればもっと強引な手もあるだろう。
詰まりは、どういい事かと言うのであれば。
中々起きない弟に口付ける理由が欲しいのだ。
眠ったまま、きつく目を瞑る弟も。起こすつもりが無い呼び掛けの前から目は覚ましていた。
そんな、少し歪んだ愛情とか。嘘とか、誤魔化しの上で。二人の関係は成り立っている。
仕方ない、そんな一言の薄い言葉だけが二人の関係を支えている。
恋人にだけ捧げるような、息も忘れてしまうような、長く長く甘い口付け。
僅かに重ねた唇が擦れて、上唇を銜え、舌先が前歯を撫でる。
寝ている筈の弟はふるふると身体を震わせた後に、その両腕がタオルケットを撥ね飛ばして姉の頭を抱き寄せる。
ビクリとしながらも、姉はそのまま弟へ身を委ねて。二人は恋人が睦事の間に交わす口付けの如く、互いの唇を貪った。
だが、それも長くは続かない。
どちらかともなく離した唇、それを合図に弟がゆっくりと瞼を持ち上げ。
それからやんわりと姉の肩を押し。
「……また姉ちゃんかよ、寝惚けて彼女かと思っちまったじゃん」
名残惜しさごと拭うように、弟は手の甲でガシガシと唇を擦る。
二人とも、本当は思っていた。
この口付けのまま、身体まで重ねられたらと。
「急に抱き締めたのはそっちだよ?お姉ちゃん逃げられなかったんだから」
弟に彼女なんて居なければ、姉も逃げる素振りなんて見せなかった。
二人で吐いた嘘が、嘘だけが。二人の関係を誰よりも近くて遠いものにする。
血の繋がった姉弟。
二人とも、世間的に許されない事を理解出来ない歳ではない。
だからこそ二人は、仕方ないの一言を日々積み重ねている。
まるで予定調和の如く互いの唇から放たれる嘘の免罪符。
怖かった。
離れる事が、愛する人と離れる事が。
怖かった。
本心を綺麗に嘘で包んで、二人は今日も生きていく。
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