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「姉ちゃん、朝飯何?」
弟が先程までの空気など無かったかのように、大きな欠伸を隠しもせず、寝癖の付いた頭をガシガシとやりながら問い掛ける。
「今日はね、スフレオムレツにしてみたの。昨日ネットでレシピ見付けて、美味しそうだなー?って」
姉もニコニコと呑気な笑みを浮かべながら、おっとりとした割にはよく回る舌で軽やかに言葉を紡ぐ。
「んー、了解。顔洗って来るわー」
「うん、じゃあ作り始めちゃうね?」
非日常的な二人の一日の始まりが、日常のレールへ戻って行く。
「今日、郁斗は何限から?」
食卓に並ぶサラダにトーストとスフレオムレツ、今日は洋風であるが。和食が出てきたり、二人が遅くに朝食を取る時には中華や、時にはエスニックまでもが飛び出す。
姉の料理のレパートリーと、姉の性格のような何処か優しい味に。弟――郁斗は毎度舌を巻くのであった。
「金曜は1限からだって覚えといてよ姉ちゃん」
「もー知ってるわよ、郁斗はご飯の後に寝ちゃって講義サボったりするから聞いたの」
「そんな人をダメ人間みたいに……今日は行くよ」
「じゃあ、お弁当用意するね。その間に準備しちゃって?私、3限からだから」
「別に良いよ、今日は。昼飯は適当に食うから、ゆっくりしてなよ」
「だーめ、お姉ちゃん知ってるんですからね。お弁当持ってかなかった日は食べなかったり、チョコだけ食べたりしてるの」
「う……分かったよ、持ってけば良いんだろ」
食卓を挟んで二人が交わす会話は、仲の良い姉弟にも映るが。それ以上の関係にも見えるだろうか。
のんびりとはしているが、しっかりと弟にまで気を回す姉と。
そんな姉を不器用に気遣う、素直になれない弟。
「あっ、ちょっと」
不意に姉が食卓に手を付いて身を乗り出し、弟は何事かと首を傾げながら姉の動向を見守る。
そして姉は、ペロリと弟の口の端を舐めて。それから体勢を崩したフリをして唇を軽く重ねた。
そのまま互いの鼻先が触れそうな位置で姉がゆるく首を傾げ。
「ケチャップ付いてましたよ?」
「言ってくれれば自分で拭くし」
「えへへ、ごめんごめん」
わざと不機嫌そうな声を出す弟に、姉は随分嬉しそうに心ない謝罪を口にする。
弟は溜め息と共に立ち上がろうとして、わざと姉と唇をぶつけた。
「仕返し、弁当お願いね?」
「はーい、お任せあれっ」
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