【おくる犬】

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「おくる犬って、餌をもらった恩返しとして決まって金曜日に思いの人に何かしらをおくる犬……だったか? 意味不明だな。金曜日なのは次の日が休みで遊びに行けるからとかの安易な理由だろ。冬美もよく信じたな」 魚肉ソーセージを食べ終えた犬が『わんっ! 』と吠えて去って行く。 その後ろ姿を白けた顔で夏矢は見つめていた。 「アホらしい。都市伝説なんて所詮は尾ひれのついた噂だ」 「分からないよ。さっきの犬が戻ってきたもの。もしかしたら夏矢の思いのこもった贈り物を私に持ってきたとか? よしよし、なんでも受け取ってあげるよ」 「犬が何を持ってきたんだか……」 口から飾りのついたチェーンを下げた犬が帰ってきた。その前に屈み、一人で盛り上がる千秋がいる。 だが、夏矢の気力は砕けるように冷めてゆく。 「その飾りは、俺が冬美に買ってやった誕生日プレゼントと同じ物じゃないか。変な物を持ってきたな」 「意外と冬美が捨てたのを持ってきたとかかな。私にお古が贈られる──の?」 小型犬が咥えていた汚ならしい物を吐き出していた。 口の中に収まっていたそれが露になる。ブレスレットだった。 そして、その先に絡まっていたものがあった。 「ひっ!? 指!!」 引きつった声が上がり屈んでいた千秋がへたり込んでいた。 心臓は見るなと激しく鼓動する。 なのに目が離せない。 コロリと転がったのは、色白く犬の唾液で洗われふやけている。 それだけならば判別はつかなかったのだ。 だが、それにはネイルが施されている。その部分が女性らしくも、人間らしくも見えた。 少し欠けた青と白の独特の模様。それは夏矢たちが話していた彼女の指を彷彿させる。
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