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「10年目の結婚記念日に1時間も遅刻だなんて。自分で予約しておいて、まったく……」
川上詩織は、高級ホテルの最上階、イタリアンレストランの窓際の席で、ひとりワインを飲みながら時間をつぶす羽目になった。
「悪いが、上司から緊急の呼び出しがあって、小一時間遅れるから」
夫の雅之から連絡が入ったのだ。
先にワインと適当なアンティパスタを注文する。
赤ワインは、結婚した年の2004年イタリアベルターニ社のアマローネ・デッラ・ヴァルボリチェッラ・クラッシコ。
イタリア出張が多い雅之が、いつも好んで飲んでいる深いガーネット色のワインである。
雅之に勧められて初めてこのワインを飲んだ時は、黒ベリーや赤チェリー、クルミの香りの後に感じる干し草の香りが大好きだった。
でもその香りさえ、今は枯れた香りに感じられてしまう。
結婚して10年。子供のいない倦怠期の夫婦なんて、そんなものなのかもしれない。
今回もまた待ちぼうけを食らわされた詩織は、自虐的になりながら、もう一口ワインを口に含む。
「いつからこんな風になってしまったのだろう」
ふっと溜息をついた。
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