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不思議そうに首を傾げる忠興に、彼は僅かに身を寄せて声を潜めた。
「先程『御縁』とお話したのですが…実は、正体がよく判らないのですよ」
「え…お得意様だからーとかじゃないんですか?」
「えぇ。初対面だと思うのですが…」
商人は高山を知っている様子だった。親しげに話しかけ、高山が茶の湯に通じている事を知っていて、その上で今回の茶器や茶葉を提供してくれたらしい。
その後船を降りて、翌日に御礼の品を持って再度訪れた。船員に彼の商人の特徴を話し呼んで貰おうと思ったのだが、不思議な事に誰もその商人を知らなかったのだという。
商人として乗船していた人間は皆高山の顔見知りで、それ以外の人間も船員や彼等の顔見知り…。
其処まで話を聞いた忠興は恐怖心に固まってしまった。
「え…何処の誰かも解らない人間から頂いた茶葉なんですか?」
「はい。」
何の躊躇も無く肯定を受けると、引き攣った表情をそのままに両手で畳を叩く。
「何でそんな危険な物を持ってくるんですかー!!!」
声と、畳を伝う振動に全員がその一角に注目した。
忠興の悲鳴は何時もの事ではあるが、話題は解らずとも視線がそちらを向いてしまうのは人間の性だろうか。だが一人だけ、視線が別の場所に向いている。
芝山の視界には、見慣れない物が入り込んでいた。
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