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――――晴天の霹靂。
喩えるなら、そんな言葉がしっくりくるなと銀瑤は手にした紙を眺めて息を衝いた。
夏に開催される南の共和国の音楽祭。
それについて記載された招待状が共和国より宿禰家に送られてきたのは半月前の梅雨入り時。
水無月も頭の頃だ。
招待状に記載されている人達と何とか時間を合わせて練習を重ねてきた。
その練習の成果が今日正に試されるわけだがどうにも胃の辺りがきりきりして仕方がない。
会場の用意された楽屋で椅子に腰掛けながら胃薬を飲もうかどうしようか思考していると、ふいに柔らかい声音が降ってきた。
「大丈夫?」
その声音に顔をあげればさらりと一房躑躅色の髪が零れて、紫紺の眸と視線が交わる。
アリス リンテッド。
今日、彼女はバイト先の自慢の菓子を片手に出場者たちに渇を入れにきたのだ。
「大丈夫ですよ お気遣いありがとうございます アリス殿」
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