1.最期の夢

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  僕は走った。 間に合わないのは何となく察しがついている。 僕が行ったところで何ができるわけでもない事も分かっている。 それでも走らずにはいられなかった。足の筋肉が断裂したって構わない。もういっそ千切れてしまっても構わない。 だからどうか神様、もしいるのなら天変地異でも起こして、あの儀式をぶち壊して下さい。 なけなしの願いと共に見上げた空は、分厚い鈍色の雲に覆われていた。昨日から降り続く地雨が街じゅうの音を吸い上げてしまったかのように、辺りはまるで海の底のような、無情な静寂に包まれている。 僕の願いに応えるものは、何も無かった。 今まさに、岬の祠(ほこら)で人柱(ひとばしら)の儀が執り行われようとしている。街に巻き起こった災厄を鎮めるため、海に生贄を捧げるのだ。 儀式の間、街の人々はみんな家に籠って祈りを捧げなければならないんだけど、そんなしきたりなんか知った事じゃない。だって、今日、人柱になるのは、 「真浦(まうら)……っ!」  
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