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夕食の席には、アリスさんと直樹、それから知らない男性がいた。
「紹介します。アパートの住人で、森下さん。」
「どうも。」
黒ぶち眼鏡の青年は、あたしを見ることもなく、頭を軽く下げた。
「佐倉です。よろしくお願いします。」
ちらりと、彼の方を見て、あたしは一瞬、言葉を失った。
血がしたたるサーロインステーキと、赤ワイン。
見た目草食のくせに、あんなものを食べてるなんて!!…人は見かけでは分からないものね。
「あ、あたしの席は…?」
できれば、森下さんの隣は嫌です!!
「こちらに。…サラダを用意致しました。お好きなドレッシングでどうぞ。」
「ぷっ…サラダだって。ウサギかよ。」
直樹が憎まれ口をたたく。
「あんたよりマシよ。なぜ、夕食にスィーツを食べてるの?しかも、餡蜜って!甘味処かっての!」
「いいだろ、黙って食えよ。草食動物め!」
やだやだ。
こいつに話しかけるのは金輪際、やめよう。
食卓には、やはりアンティークな燭台と綺麗にたたまれた刺繍入りのナプキンが置かれていた。
あたしはポケットからロザリオを取りだし、いつものようにお祈りを始めた。
「主よ、今夜のこの糧に感謝致します。」
辺りがしん、と静まり返った。
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