第1夜

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大家さんとこも大変なのね。 世の中、不景気だもんね。みんな、苦労してんだなあ…。 あたしは仕方なく、必要最低限の荷物だけ旅行鞄に詰め込み、後で取りに来ます、と大家さんに頭を下げて、町へ出た。 とりあえず、不動産屋へ向かうか。 敷金と礼金がゼロで、ボロくてもいいから、住めればいいや。 「…あることはあるけどねぇ…。」 不動産屋は渋い顔をした。 「いわくつきだよ。つまり、前の住人が自殺したというか…。1LDKで月3万。」 「ごめんなさい…ちょっとそんな話を聞いちゃうと…。月2万なら。」 ハハハ、と笑う不動産屋。 「あるわけないだろ…いや、待てよ。」 分厚い紙の束をめくる、不動産屋の目が、ギラギラと光った。 「君、年はいくつ?…18?大学生か。…健康面は問題ないよね?」 「ええ…まあ。」 何だか、怪しいな。 「ちょっと待ってて。大家さんに連絡とるから!」 逃げ腰になるあたしを、不動産屋は鋭い眼力で引き止めた。 ややあって、小さな不動産屋の、古い自動ドアがガーと耳障りの悪い音を立てて、開いた。
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