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「綺麗だね、さくら」
少女が腰掛けるベンチの後ろから顔を出し、話しかける。
突然話しかけて驚かせてみようというアルの悪戯心だったが、少女はゆっくりと首を捻り、「ありがとう」とだけ返して再び桜の木を見上げた。
(ありがとう?日本が誇る桜の花を褒められて、国を代表してお礼を言っているのかな。さすがヤマトナデシコ。オクユカシイ)
アルには少々短絡的なところがあり、純日本人である自分が他の人から見ても帰国子女だと分かるはずがないことに、この時全く思い至らなかった。
「あなた、見ない顔ね」
風が吹き、花びらが散る。
少女は風になびく髪が顔にかかるのを直しもせず、ただひたすら桜を見上げながら言った。
その時、この少女はアルが帰国子女であることを知らないのだと、アルは悟った。
「あ、僕は如月アル。この春からここに編入するんだ」
アルはベンチの前へと回り込み、断りもなく隣に腰掛けた。
「そう。すごいのね」
「え、へへ、そう?」
「だって、この学校に編入生だなんて史上初だもの」
「え、そうなんだ。それはすごいね」
叔父にこの学校へ入る手続きをされたものの、実は勉強が嫌なので逃げ出そうとしていたため、アルはハンドラー学院が創立してどのくらいなのかを全く知らなかった。
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