第1章

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徳山一家が越してきて、一ヶ月後。俊哉は、学校が終わると急いで家へ帰った。いつもなら母:弥生のしつけにより、靴をしっかり揃え、手洗い、うがいをする。しかし、この日はそれどころじゃなかった。 「ママッ! ママッ!」 家の中をバタバタ走り回り、弥生を探す俊哉。 「ママッー!」 どうやら、弥生は洗濯物を干していたようで、洗濯かごを持って、奥から歩いてきた。 「俊ちゃん、どうしたの?」 そして、玄関を見る。 「もう、靴はちゃんと揃えなさいっていったでしょ。そうそう。ちゃんと手は洗った? うがいはした?」 「それどころじゃないんだよ、ママッ!」 「とりあえず、手を洗って、うがいしてから話しなさい。いいわね?」 俊哉は、とりあえず手を洗い、うがいをしてこないと怒られるパターンだと思い、洗面所へと向かう。 「手抜きしないで、ちゃんと手洗い、うがいしなさいよ。」 「はーい。」 俊哉は、いわれたとおりに手をしっかり洗い、うがいも手を抜かずしっかりとする。そして、気を取り直し、弥生のところへ向かう。 「ちゃんと手洗った? うがいもした?」 「したよ。」 「俊ちゃん、話あったみたいだけどなあに? 学校で何かあったの?」 「ママッ、太一たち見た?」 「おとなりの徳山さんたちね。いるわよ。だって、昨日、太一くんのお母さんとお話ししたわよ。」 「太一のお母さん普通だった? 何か言ってなかった?」 「特に何もいっていないわよ。一体、どうしちゃったの? 俊ちゃん、何かあったならはっきり言いなさい。」 「太一、転校したって。」 「えっ? 昨日までいたし、引っ越してきたばかりなのに? 間違いじゃないの?」 「間違いじゃないよ! 先生が言ってたもん!」 弥生はまさかと思い、徳山さんが住んでいる家を外に出て見た。もちろん、俊哉も一緒に。たしかに、俊哉のいったとおりのようだった。 昨日までは普通だった徳山さんの家が表札もとられ、カーテンもなくなり、中はガランとしていて、人の住んでいる気配は感じられなかった。 それを見た弥生は、何が何だかわからず、呆然とするしかなかった。
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