第1章

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新築物件は人気があるのか分からないが、早いもので二週間後新しい隣人が越してきた。ただ、今回は、最初の徳山さんと違い、要田一家に挨拶に来ることはなかった。 外で、見かけて挨拶をしても会釈をするぐらいで、話そうとする気配すらなかった。 ただ、夫婦二人暮らしのようで年齢は50代ぐらいに見えた。子どもは独立しているのか、いないのか、分からないが、とりあえずここにはいないようだった。 「ねぇ、あなた。」 「なんだい?」 「隣の人、徳山さんたちと比べたら無愛想じゃない?」 「まあ、徳山さんたちが愛想良すぎたってのもあるんじゃないか?」 「それにしても、話しかけようとしたら会釈してすぐに逃げるように家にはいっていくのよ。」 「まあ、会社だってそうだけど、人から話しかけれたりするのを嫌がる人もいるよ。人それぞれだから、しょうがないさ。」 「そうかもしれないけど………」 「とりあえず、人付き合いが嫌いそうな人たちだから、こっちも無理に話そうとしなくていいさ。軽く会釈だけしたらいいよ。あまり、気にしすぎたらきりがないよ。」 「そうよね。気にしないほうがいいわね。」 そういい、二人とも寝床についた。 そして、それから一ヶ月後。 「それじゃ、いってきます。」 「はい、今日も頑張って。」 仕事に行く敏史。それを見送る弥生。俊哉は、すでに学校へと行っている。家から出て、職場へと向かう敏史。 (あれっ?) 通りすぎた場所をもう一度戻り、そこを見る。 (やっぱりだ………) (まだ越してきて、一ヶ月足らずじゃないのか? 一体、何があるというんだ? それともただの偶然なのか………) 敏史が一度もどり、足を止めたのは自宅のとなり。そう。つい最近、50代の夫婦が越してきた家である。 カーテンはとられ、中は丸見え、生活感のある家は生活感がなくなり、ただの空き家になっていたのである。 それを見て、敏史は嫌な予感にかられ、仕事に行かなければならないが、しばしポツンとその家の前で立ちつくしていた。
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