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他愛のないことを話ながら、主人の部屋へ向かう。
そう、平和だった。
この時までは。
―ズッ…シン、と城全体を揺らす地響きにお互いが顔を見合せる。次いで訪れる、ここ最近の目覚まし時計がわりになっている、間の抜けた悲鳴が響き渡る前に指示が下された。
「行け」
その言葉に、瞬時に主人の部屋へ空間移動する。
ぶれた視界が正常になると飛び込んでくる光景は予想通りであり、防ぎたかったものだ。
キングサイズより大きなベッドの上。
そこには主人と主人に覆い被さった不法侵入者。
「アウトォォオォォォオォォォ!」
侵入者だけを風の最上級魔法で吹っ飛ばし、主人を転送魔法で自分の傍に保護する。もちろん、神級結界を自分たちの周りにかけることも忘れない。
吹き飛ばした時なかなかにエグい衝突音が聞こえてきたが、眠気覚ましになるだろうと思い直した。
ざっと主人を見たが、最悪の事態は免れたようだ。
だが、寝込みを襲われたことに変わりはなく、その姿はいただけないものだった。
漆黒とも濡烏とも称すべき絹糸の髪が乱れ、若干青みを帯びたなめらかな白磁の肌に流れている。紅玉よりも深く鮮やかな眼は大きく見開かれ僅かだが潤んでいるようだ。極め付きは、夜着の乱れと大きく開かれたために見える胸元。
十中八九、強姦されて茫然自失の体にしか見えない。その原因が、低血圧と寝相の悪さという色気もへったくれもないものだとしても、だ。しかも、このまま外にいたらそれこそ恐れていた事態になりかねない危うさがあった。今の主人に心から心配して純粋に助けようと手を差し伸べるひとは1割未満ではないだろうか。
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