日常化しつつある非日常

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未だ覚醒しきっていない主人の夜着を手早く直し、乱れた髪を手櫛で梳る。 それが気持ちよかったのか、手に頭を押し付けてくる。本来なら微笑ましい光景だが、如何せん状況が状況だった。 「ねえ、何、してるの」 地を這う声音にそちらを見て、すぐさま己の行動を激しく悔やんだ。 そこには、目をぎらつかせドス黒い何かを纏わり付かせながら口元を三日月に歪める侵入者、もとい、主人の弟君がこちらをじっと見ていた。 これだけならまだよかったのだが、露わになったその顔もまたよろしくなかった。 目の下には暗がりですら判る大きく濃いクマができており、肌の血色も悪く若干荒れている。髪にも艶がなくペタリと顔や首に張り付いていた。 はっきり言って、怖い。 しかも、主人と並んでも遜色ない美形であるため、より一層鬼気迫る凄みがあった。 滅茶苦茶、怖い。 大切なことなので2回繰り返す。 主人もそんな弟君を見てさすがに身の危険を感じ、覚醒したようだ。 ただでさえ血の気のない顔からさらに引いたようで、真っ青を通り越して真っ白になっていた。 「……え、と……おは、よう…」 「うん、おはようルシファー。今日も可愛いね」 主人のたどたどしい挨拶に笑顔で返す。その時だけ目が柔らかく細められるが、自分に向けられる視線は絶対零度である。 大天使長がそれで良いのかとか、朝から主人を口説くなとか、仕事はどうしたというツッコミはしない。 だって、命が惜しい。 「おはよう御座います、ミカエル様。遠路はるばるご足労感謝申し上げます。此度は如何様なご用件でしょうか?」 努めて冷静に、にこやかかつ友好的な表情を浮かべる。 この城で働くようになってからスルースキルが格段に上がった。 ………うん、悲しくは、ない。 ないと胃にマッハで穴が開くだろうから。
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