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若干意識を遠くに飛ばしていると給湯室からモーニングティーを乗せたワゴンが出てきた。
「おはよう。早いな、クロード」
「…バァルハイトさん」
おはようございます、と返すが、内心は大わらわだ。ワゴンの後から出てきたのが上司の家令というのもあるが、なんといっても“消毒”をした相手だからだ。気まずいにも程がある。
こちらの心情を知ってか知らずかヘイゼルの眼を細め苦笑する。
「執事の自覚が生まれるのはいいが、お前の睡眠時間が削られるのはいただけないな」
「そんなこと!オレが未熟なだけで、バァルハイトさんが気にされることないです」
「使用人の労働内容や時間の管理も私の仕事だ。それにお前はのみ込みが早いが、その分自分をないがしろにし過ぎる。努力することが悪いとは言わない。だが、もう少し自分を大切にしなさい」
「…はい」
嬉しい。
部下として心配されること、気遣われることが嬉しいと知ったのはこの城に勤め始めてからだった。出来て当然と周りからは期待される環境での気遣いは、自分の身体を想うものとは違っていたから。
家令とともに主人のモーニングティーを入れる執事というのも珍しいが、見習いのため家令に手本を見せてもらう必要がある。そのせいで仕事を増やしてしまっていることに申し訳なさを感じていることを指摘されれば、いたたまれない。
「そういえば、あのストーカーは、今日は来ないだろうと言っていたが……」
「それは、ラファエル様から、ですか」
さりげなく話題が変えられたことにほっとする。
「ああ。執務机や部屋に書類の山を築いて監禁、いや軟禁したらしい。だが」
「来られる、でしょうね」
「アレに敬語を使う必要はない」
「曲がりなりにも、大天使長にタメ口はちょっと……」
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